天使のいない12月  Leaf

人の心とはよく分からないもので。
自分の心だって、よく分からない。
それが恋というものであれば尚更だ。
人を好きになるとは、どういうことだろう?
セックスをさせてくれれば、好きだと言えるのか?
一緒にいて心が落ち着けば、好きだと言えるのか?
セックスをしても、決して子供が欲しいわけじゃない。
愛の再確認と呼べるほど神聖な行為でもない。
ただ気持ちよくなりたいだけなら、自慰行為で充分なはずだ。
それでも、近代社会の十代の若者たちは目をギラつかせてセックスをしたがっている。
覚えたての頃は非道いものだ。
猿と形容されても、文句は言えない。
責任を取れるほど大人でもないのに、欲求だけが中毒症状のように増大していく。
では、好きだからセックスするのだろうか。

考えてみて欲しい。
もし貴方に付き合っている女性がいたとして。
貴方は、彼女のどこを好きになった?
可愛いから?
話していて楽しいから?
一緒にいて心が安らぐから?
では、どうしてセックスするのか?
改めてその理由を答えることが、貴方に出来るだろうか?
それが、貴方にとってセックスをするための口実になってはいないだろうか?

現代人は、形式ばった恋愛に冒されている。
つまり、一般論的な恋愛。
付き合おうと告白してOKが出れば恋人同士という関係が成立し、
別れようと言い出したとき、その関係は終焉を迎える。
好きと告げてから結婚するまで(或いはセックスするまで)の過程を想像してみて欲しい。
自分が一般概念の上に成り立ったレールの上を歩かされていないと言い切れるだろうか?

今一度、恋愛について考えさせてくれる。
天使のいない12月は、そんなゲームです。



○システム
可もなく不可もなく。
必要最低限の機能は備わっているし、特に不満はありません。
ちょっと気になったのは、バックログが一行ずつの巻き戻しなところ。
他のゲームでもよくありますが、最近は数行まとめて表示される形式のゲームばかりやっていたせいか、結構気になりますね。
メッセージウィンドウの消去が、マウスカーソルを一番下に持っていくと消えるのはなかなか革新的。

○音楽
これも流石にリーフ、と言うべきでしょうか。
しんみりとしたセンチメンタルな曲が多く、物語を盛り上げてくれます。
この手のゲームのBGMというのはあまり自己主張が激しすぎず、かといって淡々ともしていないことが重要だと思うんです。
若手メーカーはこのあたりが割と両極端なところがあって、いまいちな感じがするのですけども。
大手メーカーではアリスソフトが前者の傾向が強いようです。
ただ、あそこはあまり普通の恋愛ゲームって出さないからまた問題点は違ってくるのですが。
そんなことはどうでもいいですね。
とにかく、雰囲気的には充分合格点。
OPとEDのボーカル曲が実に素晴らしい。
特にEDの「ヒトリ」は何度聴いても浸れて、良いです。
真冬の夜、MDなりなんなりに録音して外で聴いてみたい曲。

○シナリオ
全体的に見れば、いわゆる「鬱ゲー」というジャンルに属しそうな感じ。
でも個人的にはそうは思いません。
様々な恋愛観を、人生というものに投げやり気味な主人公の視点を通して見せつけられてゆく。
まさしく前述した通り、「恋愛」と「セックス」についての考え方というものが描かれています。
攻略対象キャラは5人。
共通ルートは短く、1プレイ3〜4時間程度と昨今のゲームにしてはやや短め。
それでも中だるみする箇所がなく、テキストからはユーザーを最後までぐいぐいと引き込んでいく力強さを感じます。
主人公の性格がドキュンなせいか、巷ではあまり評判がよろしくないようですが、この性格あってのストーリーだと思うので、そこはなんとかして受け入れてください(笑)
個人的には好きなんですが。こういうキャラ。
恋愛観とかよく似てるし。

○CG
原画家さんは、なかむらたけしとみつみ美里。
鬼レベルなくらい強力なタッグなだけあって、絵に関しては言うことなし。
塗りも綺麗ですし、HCGはこみパなどから比べると飛躍的にエロさが増していると思いました。
そこらへんは最近の両者の同人誌を読んでいる方なら察しがつくと思われますが(笑)
特にしのぶEDのCGには注目していただきたい。
個人的にかなりお気に入りな構図。
ただ可愛い絵だけじゃなく、こんなセンスのある絵も描けたんだと素直にびっくり。

では以下、コンプリート後レビュー。
あ、ちなみに今回は妄想トークとか特に無しです。
いつもの悪ノリを期待している人は、ここで退場された方が時間を無駄にしなくて良いかもしれません。


コンプリート後:レビュー

※一応、ネタバレ注意。。
まだ未プレイ、未コンプの方はここで退場されることをお薦めします。
クリアした順に書いていきます。

○葉月 真帆

実に思想的なキャラ。
一般論的な恋愛の考え方からセックスを省いた上で、さらに理想を追求したような。
美しくも愚かで、悲しいほどに個人的に共感のできるストーリー。

○麻生 明日菜
欺瞞、疑心、戯曲。
受け入れ、望んだ先に二人の結末はあるのか。
このシナリオの主人公が羨ましい。切実に。
個人的には唯一、後日談があっても良かったと思えるシナリオ。
他のシナリオを後でやってみると分かるが、あらゆるところで罠を張り巡らせている彼女に畏怖すら覚える。

○榊 しのぶ
エロい。
そしてマリみて。
声もエスカレイヤーとかマブラヴの純夏と同じ人で発狂もの。
ヤられながら「おとうさん」と言ったり、エロシーンは見所満載。
それだけではなんなので。
堕ちてゆく原因は少し強引なものの、そこからの堕ちっぷりが素晴らしい。
自虐の果てに堕ち、親友を傷つけ、自分から離れていってしまったことで底辺まで堕ちてゆく。
主人公のしのぶへと向けられた気持ちは確かに「好き」であったのだろう。
どこまでいっても平行線。二人の気持ちが交わることは永遠にない。
そんな二人の関係を絶妙なまでに表現した最後のCGは拍手モノ。

○栗原 透子
セックスが、自分が必要とされていることを確認するための手段となってゆく。
根本にある想いは、からだよりもこころのつながり。
このシナリオにおける主人公は、まさしく俺そのものだった。
なりゆきで始まった肉体関係、好きかどうかと問われれば、どちらでもないと答える。
ここまで非道い付き合い方をしていない点を除けば、全シナリオ中で最も共感できた。
セックスによって始まった関係が、二人にとっての恋愛概念を大きく狂わせてゆく。
どのような形であれ、最終的に主人公は透子を必要とした。
それは紛れもなく、俺が望んでやまなかった「好き」という気持ちのひとつの形であった。
そこへ辿り着けた主人公を、やはり羨ましく思う。
というか、明日菜がいいところを持っていきすぎで透子が最後の最後でないがしろにされた感があるのは残念。

○須磨寺 雪緒
怠惰が狂気に触れて絶望に変わるとき、死はなんでもないようにすぐ側に在った。
自殺願望者と、自殺志願者。些細な違いに見えて、その差は果てしなく広い。
主人公と雪緒の関係は、最終的に「恋愛」という概念を著しく超越していた。
身体の繋がり、心の繋がり、全ての概念を踏み越えた先に到達していた。
まったく新しい男と女の関係。
原初的であると呼んでもいい。
それ故に、原罪が彼女らを戒めた。
運命に負けて、絶望に勝ってしまった。
そのために生かされていくことになった二人は、全エピソード中で一番幸せな未来が待っているに違いない。
ただ惜しいのは、雪緒の絶望の原因が犬の死にあったこと。
ペットロストは経験したことはないが、少し大袈裟すぎるように思えた。
屋上から飛び降りて画面が真っ暗になったところでスタッフロールが流れていれば、個人的に神シナリオになっていたのだが。
惜しい。非常に惜しい。
日本で最高レベルのピアノ演奏が聴ける蕎麦屋を妄想して補完しろ。



○総評
プレイ後に、余韻に浸れる何かが残るわけでもない。
それでもこの作品が良作になるか否かは、主人公やヒロインに考え方に多少なりとも共感できるかどうかにあると思います。
前述にも書いた通り、今一度、恋愛について、セックスについて、現代の一般論的な概念を除外視した上での男と女の関係の在り方について考えさせてくれる。
そんなゲームです。
登場人物たちの様々な恋愛観から、どうかその答えが出ますように。

キャラ萌え要素はそんなに多くはなかったけれど、それでもこの作品は伝説となるべき要素があちこちに散りばめられていました。
きっと伝説に残ることでしょう。
そして歴史に遺る名言として、語り継がれるはずです。

「あとは家に帰ってご飯食べてオナニーして寝るだけだし」

クリスマスの午後、主人公とさんざセックスしまくった後、駅前でのしのぶの発言。
神すぎるよ、しーちゃん。




     
総合 シナリオ グラフィック サウンド 萌え度 このゲームは面白かったか?
81点 85点 95点 75点 40萌 90点 もちろん……イエス。

 
いつものノリを期待していた人、正直スマンかった。
でも作品のノリ的に、どうしても俺自身のことと被ることが多かったために、今回はあえてまともなレビューを書くことにしました。
加えてリアル(というのかどうか)の方でもこれが原因で思い詰めていたことによって引き起こされた事件がごく最近あったため、色々なことにけじめを付ける意味でも。
次回は悪ノリ復活の方向で。