ONE2〜永遠の約束〜 BaseSon
1998年5月29日。
日本中のヲタクが泣いた。
「うおおおおお! 茜、可愛ぇぇぇぇ!」
「俺も盲目少女とLet's Lovin'!!」
「七瀬に殴られたい!」
「みゅー! みゅー!」
「スケッチブックなどに頼らずとも、君のメッセージは届いてるさ!」
「関節ロック! 関節ロック!」
当時、俺にとってのエロゲーは、エロ漫画と大差ない認識でしかなかった。
言ってみれば、アニメの延長線上。可愛い女の子の絵柄に、それを引き立てるストーリー。しかし、どこかで恋愛シミュレーションというものを達観して見ていたあの頃。
達観というよりは、客観だろうか。
モニタ上の女の子に本気で恋などできるはずもなく、ただ頭でストーリーを追って、アニメを鑑賞するのと何ら変わらない感覚でしかなかった。 だがある日を境に、俺の中で価値観が一変する。
1998年。5月29日。 「ONE〜輝く季節へ〜」というゲームが発売された。
Tacticsのゲーム自体は初めてではなかった。実を言えば、「同棲」の頃からプレイしている。 「同棲」は友達に「このゲームが最近気になるんだよ」と薦められて買ったのだが、
今にして思うと、彼は第一印象でいたる絵に萌えていたのである。そして直感的に購入に至った俺も。
どうかしていた。あの頃は。
それはともかく、「ONE〜輝く季節へ〜」である。
俺は最初、このゲームには何の期待も抱いてはいなかった。
前作の「MOON.」がいまいちパっとしなかったせいだろう。確かに良いゲームだと思うが、どうしてもその当時流行っていた「エヴァンゲリオン」のパクリ的な印象を拭い切れなかったのである。
何より、Leafの「To Heart」がブレイクした直後である。
今度はその手の正統派恋愛アドベンチャーできたか、と雑誌のゲーム紹介を見て思った覚えがある。
それでも俺は、発売日にバイトの休みを取って買いに走った。
直感めいた何かに突き動かされていたのだろうか。一刻も早くプレイしたかったわけでもない。ただ、何かに後押しされたかのように、俺は走った。
そして目的の場所に辿り着き、店頭に張り出された一文を見て愕然とする。
「5月22日発売予定のONE〜輝く季節へ〜は5月29日に延期されました」 ……この頃から彼らの延期癖は芽吹いていたようである。
気を取り直して、翌週に無事購入。
実際にプレイしたのは、それから三日ほど経ってからのことだった。
今でも覚えている。夕方の5時頃から始め、夜の11時に一人目(澪)を終わらせた。
画面がタイトルに戻り、俺は頬を濡らしているものに気づいた。
涙である。
それが、俺の中に「エロゲーで泣く」という概念を植え付けられた最初の瞬間だった。
何気ない学園生活。
女の子たちとの楽しい会話。
なかなか出てこないエロシーン。 主人公に起こる異変。
それぞれのヒロインたちの過去と、心の傷。
次々と、親しい人たちから忘れ去られていく主人公の存在。
その中で唯一、ヒロインの子だけが自分のことを覚えていてくれたという安心感と嬉しさ。
始まったと思ったらマッハで終わるエロシーン。 絆を深めたヒロインとの、残酷な別離。
主人公のことを待ち続けるヒロインの心理描写。
そして再会できたことを、プレイヤーである自分が何より嬉しく思うその気持ち。
何もかもが新しくて。
張り裂けそうなほど胸が苦しくて、切ない。
そんな気持ちにさせてくれたゲームだった。
気になった俺は、ネットでTacticsのホームページの掲示板を閲覧した。
するとそこには俺と同じ、「エロゲーに感動させられた」人々が熱い思いを書き綴っていたのである。
それは圧倒的な共有感であった。
俺たちは同じものに触れ、感動し、泣いた。その事実がますます心を熱くさせた。
この瞬間、エロゲーは「作品」へと形を変えていった……。
恐らく、このゲームをプレイしたせいでヲタク業界に呑み込まれていった人も少なくはないだろうと思う。
当時ではダントツに斬新なゲームであったと思うし、それ以降の他社メーカーの製品にも同じような要素が取り込まれていったのも事実である。
多くの者にとって、この作品は「良き思い出・最強の名作」として今も心の奥底に根付いているに違いない。
そんなヲタク業界の一斉を風靡したゲームの続編が、数年後に発表されることになる……。
知っての通り、現在のTacticsに「ONE〜輝く季節へ〜」を制作した中枢のメンバーは残っていない。
彼らは新ブランド、Keyを設立し、「ONE」の正統進化系とも言える「Kanon」と「Air」を発売し、今も多くのヲタクたちの心をつかんで離さない。
対してTacticsは、当時のメンバーが抜けたせいもあってか、それ以降の作品はあまりパっとしない状況が続いた。
もちろん胸を張って良作と呼べる作品もあっただろう。
しかし、そこにはどうしても「ONE」との比較が生じてしまう。
「久弥・麻枝のいないTacticsはこの程度か」という認識が常に付きまとっていったのである。
上記は俺の偏見かもしれない。だが、そう思ったユーザーは決して少なくはないだろう。
そんなある日、Tacticsの大元会社であるネクストンから、新たなブランドが誕生した。 それがBaseSonである。
彼らは同時に、全世界に向けて「ONE2」の制作を発表したのだ。
ヲタクたちはマッハで激怒した。
「結局はお前らも過去の栄光にすがるのかよ」
「ONEの設定を使えば安易にプレイヤーを泣かすことができるとでも思ったのか?」
「どうして自分で自分の首を絞めていることがわからないんだ?」
「お前らがやろうとしていることはエンターテインメントでもなんでもない。ただの自主性の放棄だ」
「ボ、ボ、ボ、ボキのオ、オネを汚すなぁぁぁ!!」
批判。
批判の嵐が飛び交う。
誰もが理解に苦しんだ。
BaseSonがやろうとしていることは、傍目から見れば愚行にしか見えなかった。
シナリオを誰が担当するかもわからない。
音楽は? 原画は?
すべてが不明瞭なまま時は流れ、ホームページや雑誌上で大々的に原画担当オーディションの告知が張り出された。
日本中のヲタクたちがこう思った。
「ハァ?(゜д゜)」
と。
つまり、一般の中から原画を募り、その中から決めてしまおうということである。
現役のプロからではなく、恐らくは原画未経験者のアマチュアから選出しようというその発想に、誰もが呆れたことだろう。
「ONE2」を作る以上、前作を超えることは命題であった。
下手をすれば、両刃の剣。輝くほどの才能を持った原画に出会える可能性もあれば、その逆の原画しか集まらない可能性もある。
もしいたる絵以下の原画しか集まらなかったら?
……そう考えた途端、誰もが安堵の息をついた。
「あれ以下なんてあり得るはずがないさ! アヒャ!」 これは激しく俺の偏見であることを追記しつつ、原画オーディションは静かに幕を閉じていった。
そして採用された原画がコレ。
日本中のヲタクたち発狂。 目も当てられない状況へと陥ってしまう。
それからしばらくして、さらに詳細な製品情報がホームページに載ることになる。
そこにはまったく別人と化したキャラ絵があった。
原画家採用からデザイン最終案決定までに何があったのか、非常に興味深い。
デモムービーも公開され、反応は上々。ホームページ上でマスターアップの告知もされた。
今年の4月に原画の片桐雛太さんのサイン会(これについては下記にて詳細を記す)も開催され、すべてが順風満帆かに見えた。
そして2002年4月26日。
「ONE2〜永遠の約束〜」が発売された……。
今回で8回目のゲームレビューになります。
TYPE-RXの寄生虫、BBBです。もよろしくお願いします。
今回は今年最大の問題作とまで言われた、「ONE2〜永遠の約束〜」です。
冒頭で書き殴った通り、このゲームが発売されるにあたって背負わされた命題は非常に重いです。
それは、「前作を超えること」。
まがりなりにも続編、「2」を名乗るなら当然のことだと言えます。
普段、ゲームレビューではなるべく他のゲームと比較しないようにしているつもりですが、今回だけは評価するにあたって、比較することが前提であると判断したので、その方向で進めていきたいと考えています。
ちなみに前作の俺内部の点数は下記の通り。
総合 | シナリオ | グラフィック | サウンド | 萌え度 | 永遠 |
95点 | 98点 | 65点 | 92点 | 90萌 | 100点 |
予想総合 | シナリオ | グラフィック | サウンド | 萌え度 | 永遠 |
70点 | 75点 | 80点 | 80点 | 75萌 | 50点 |
さて、結果どうなったのか。
それはこのレビューの末尾にて。
○システム
おなじみのNScripterです。
かなりカスタマイズされていて原型を留めていません。
2chの購入検討スレのレビューを読んで初めて気づきました(笑)
最初、音楽のイントロが繰り返されるバグに見舞われましたが、修正パッチをあてることで回避できました。
既読スキップがない点を除けば、普通のシステムだと思います。
○シナリオ
文章が非常に上手い。これには正直、驚かされました。
技術的にはこちらのが上ですが、ところどころ前作の前半のギャグノリを模倣しようとしているところが見事に外しまくっています。
いきなり主人公が「俺は実はスーパーエージェントなんです」とかのたまったときは、やべっ、踏んだ!と思いましたが。
主人公の心理描写の上手さに惜しみなく拍手を贈りたいです。
ただ致命的な欠点として、前作の重要なキーワードであった「永遠」に関する説明がほとんど無いのが悔やまれます。
全体的に前作をプレイしたことがあることが前提となった構成になっているため、ONE2からプレイされた方はさぞや戸惑ったことでしょう。
永遠に消えてしまうのが前作とは異なりヒロイン側であるため、主人公の一人称形式で進行していく構成的に説明が困難なのはわかりますが……。
この世界から消えてしまうという危機感や兆候がほとんど表現されていないせいで、後半はもどかしいほどにあっさりしています。
このあたりを改善できていれば、もっとテキストが映えたと思うのですが。非常に残念です。
総プレイ時間は20時間程度。
共通ルートが短いので、少し長く感じるかもしれません。
○音楽
どことなく前作を模倣したような曲が多い印象を受けます。
それでも曲のレベルの高さは、かなりのもの。
中でもピアノの音色が多く使われた曲の完成度が高く感じられます。
前作から三曲ほどアレンジされたものがありますが、これも非常に良いです。
特に「雨」は、思い出し泣きしてしまうほどでした(^-^;
主題歌は初回特典に収録されているロングバージョンより、本編で流れるショートの方が好きです。
最後のピアノのフレーズがお気に入り。
○CG
雛たん、ハァハァ(;´Д`) ……とても可愛い絵をお描きになられます。一部、某有名妹キャラにそっくりな子もいますが。
CGの出来もとても綺麗で、ONEの世界観にぴったりだと思います。
前回のレビューでもちょろっと書きましたが、俺は4/12に行われたサイン会に参加したんですよ。
大阪日本橋にあるソフマップ二号店の6階(7階だっけ?)のイベントスペースでやっていたんですが、そこで俺はある意味、予想通りというか、残酷な光景を目の当たりにしました。
その日のサイン会は、「三大女流作家合同サイン会」という名称で、他には「女教師二十三歳」「忘レナ草」の原画家さんがいらっしゃっておりました。
左から「女教師」「忘レナ」「ONE2」と並んでいたわけですが、各作家さんの前の人口密度の比率はなんと3:7:0。
マジで誰もいないんですよ。ONE2のブースの前に。
ONE2の予約券にハンコを押してもらい、ゆっくりと中へ進む俺。
いろんな意味で心臓バクバク。
「ありがとうございます! あなたがサイン第一号です!」だとか、
「え、え、えっ!? ほんとうに私なんかのサインで良いんですか!?」
とか言って泣かれたらどうしようと本気で不安でした。
実際に前に立ってみれば、なんのことはなく普通にサインしてくださいましたけども。
その瞬間、俺は決意しました。
俺は雛たんのために、何がなんでもONE2を買う、と。
その日発売で、購入を予定していた「忘レナ草」も、雛たんに操を立てる意味で回避。 あのときの雛たんの目は、捨てられた子犬のそれと同じに見えたのです……。
余談:その後、友達や掲示板の情報から、俺が行く少し前にONE2のブースの前にかなりの列ができていたことを知らされました。
良かったね、雛たん……よかったね、よかったね。
コンプリート後レビューへ行く前に、+ 激しく警告 +
今回は確実に妄想SSが飛び交います。気分を害されたなら、すかさずブラウザの戻るボタンをクリックしていただけますよう、お願い申し上げます。
コンプリート後:レビュー
総合 | シナリオ | グラフィック | サウンド | 萌え度 | 永遠 | 心音 | 久遠 |
90点 | 80点 | 85点 | 92点 | 95萌 | 60点 | 妄想臨界点突破 | 天才 |
※余談
1998年12月。
ブライトシーズン2というイベントが大阪で行われた。
俺にとっては初の同人誌即売会。
そこで俺は、普段ネットの掲示板でしか見かけることのない名前の人と実際に対面する。
思えば、あの頃から運命の歯車は回り始めていたのかもしれない。
というか俺がヲタクになったのはお前らのせいだ(爆)
来たる2002年6月1日。
再び大阪が、妄想都市へと姿を変える……。